浦島太郎のはなし(1
浦島家の父、柿二郎とヨネの長女として泰代は産まれた。
しかし、その後次々と産まれた七人の赤ん坊が全て女子だったため、泰代は9歳を迎えたその日から改名を強いられ、長男、太郎として生きることになった。
柿二郎の教育方針は武芸や学問に厳しく、素直で才能溢れる泰代は二歳の頃より修行に明け暮れ、あっという間に剣術では父と互角、いやそれ以上の技を身につけていた。
太郎となったその時、既にその村では泰代に剣術で叶うものはいなかった。
それから10年、浦島太郎の剣豪伝説は津々浦々に響き渡り、毎日のように腕に覚えのある剣術使いが太郎の元に現れたが、太郎は容赦無く相手を倒し、いつの間にか浦島剣術道場は100人の弟子を抱える大所帯となっていた。
七人の妹はそれぞれ、あるものは婿を取り浦島家に残り、あるものは嫁に行き数々の財産を定期的に浦島家に献上していた。
全ては泰代の、いや太郎の剣術のお陰であった。
好きな剣術で身を立てて暮らして家族を支えている太郎であったが、そんな太郎にも時折、泰代だった時代を思い出す瞬間があった。
それは夕暮れ、浜辺を歩いている時、真っ赤に沈む夕日を眺める時であった。
その日も太郎はひとり、夕日を眺めていた。
遠くから子供達の遊ぶ声が聞こえる。
あれは自分の道場に通っている子供達だろうか。聞き覚えのある声。
太郎はその子供達の輪に近づいていった。
「あっ、太郎師匠」
子供達のひとりが気づいて手を振る。
間違いなく知っている子供達であった。
「何をしておるのじゃ」
太郎は尋ねた。
「大きな亀が打ち上がり、右往左往しているのでございます。」
子供のひとりが答えた。
亀だ。
子供達の輪の真ん中には亀がいた。それは海亀だった。
「何じゃろう、卵を産んでいるのであろうか?」
「いえ、師匠、この亀はオスでございます。」
オス、、、男の亀、、、、
男の亀。
太郎の全身は雷に打たれたような衝撃が走った。
初めて見る男の亀の頭。
太郎は、その瞬間、泰代に戻った。
つづく